以下は、2018年6月に自費制作した同人誌「On the Road」の転載になります。
旅のはじまりは唐突で、
旅に出る理由はとても単純だ

「行けるから、行った」

ただそれだけだ

ふとしたとき、私は旅の楽しさに
気がついてしまった
それからずっと、私は旅に囚われている

旅とは、
すべてを投げ打って、
すべてを求めること

矛盾があらゆることを教えてくれた

この物語は、大学生の私の話

モラトリアムの中にいて、カメラと共に
自身の興味の赴くままに放浪した、

その記録、そしてその言い訳

後悔? 懺悔?
そんなものはない

確かに私はいくらか盲目だった
だが振り返るにはまだ早い

記憶が擦り切れないための定着作業

「本物」を見たかった

そこにあるのか、確認したかった

さらなる刺激が、感激が、高揚が、

もっと、あるはずだと

何一つ信じて疑わなかった

これは私が見た、北海道の景色
本作品は、北海道旅行をテーマにした写真集である。

これは、私が2014年から2018年にかけて
北海道を駆け回り、
「北海道のあらゆる景色」を追い求めた
旅の記録である。

大学生になって旅に魅入られた私は、
北海道だけでなく、46都府県のほか、
いくつかの外国を放浪していた。

ある時、閃いた。

「北海道をやろう」
「北海道が面白い」と。

今思えば、尋常でない情熱をもって
北海道のあらゆる景色を熱望した。

とにかく走り回った。

北海道を15周ほどしたころ、
私は確かな手ごたえを感じた。
旅先で撮った数多の写真が手元に残った。

しかし一度満足してしまうと、
あの情熱が恐ろしいほどの速度で冷めていった。

だから時間が自分の記憶を消してしまう前に、
形にして保存したい。

その思いから私は、自分の旅の記録をつけ始めた。
定着はできるだけ正確なものになるように努めた。

最終的に、自分の経験と思考の順序を鑑みて、
作品は旅そのものへの洞察と、
旅をするフィールドについての考察、
そして内省が入り混じる形に落ち着いた。

本作品は4章構成でお送りする。

第1章
北海道の絶景を掲載しながら、
旅に魅入られた私の感情に焦点を当てた。

第2章
「移動」という側面をピックアップしつつ、
旅の辛さについて書いた。

第3章
北海道の景色を語るうえで欠かせない、
絶景と対になる「ある景色」に注目し、
北海道の土地柄と現状を炙り出した。

第4章
第1章から第3章までを補足するものとして設定し、
より詳細な旅の実情について述べた。

いったい何が私を動かしたのか。
私は北海道で何を見たのか。
そして得られた「モノ」とは。

これはまさしく、集大成である。
私の記憶が、ここにある。
まず初めに、自己紹介をしておこう

私は1995年、東京で生まれた
高校まで杉並区で過ごし、
大学に通うため、北海道に来た

それまで北海道を全く知らなかった

大学を選ぶ、というときになって
北海道を人から勧められた
深く考えず、北海道に行くことにした

東京にはもう18年も住んでいたので
東京を離れてみるのも良いかもしれない

そういう思いがあった

加えて自分は
「大学で何をしたらよいのか」という問いに対して、
明確な答えを持っていなかった

考える時間をくれる北大は、都合が良かった

来てしまえば何てことはなかった

引っ越しも、一人暮らしも
やってみればできた

あらゆることが初めてだったが
初めてであるが故に、何もかも楽しかった

北海道はまさしく未知の世界だった
私は写真が好きだ
 
あらゆる写真を見て、撮って、
そして旅をして
好奇心の赴くまま自由に走った

世界は広かった
しかし、手の届かないものではなかった
走った分、着々と大地に自分の足跡が残っていった

漠然と、いい写真が撮りたかった
それは「場所」が叶えてくれた

いい写真が撮れる場所がある

現状に不満があるなら、
移動すればいい

そう、写真を追い求める人は
旅人であり、
冒険者であった

カメラという道具は
自分と世界をつなげてくれる

必ず何かがそこにはある

私は
まだ見ぬ景色を追い求める旅人

あらゆる景色をこの目で見て、
あらゆる大地をこの足で踏まんと欲する変わり者

この体が動かなくなるまで、
この好奇心は止まらない
​​​​​​​
大学生になると、時間ができた
それまではすべて与えられていたけれど
今度は自分で何もかも
決めていかねばならない

何も知らない自分は、
この時間を持て余した
何をしたらよいか、分からなかった

何がしたいか?と聞かれても、
写真を撮りたい、というくらいで、
自分の将来の設計があって
そこに向かって走るなどということは
なかった

だからとりあえず、旅に出た
旅に出て、知らない場所に行けば、
何かしらに出会うだろう

そうしているうちに、
自分の行く先が見えてくるのかもしれない

つまり、未来を探しに旅に出た

大学生の自分でも、
協力してくれる人がいたから
お金もどうにか工面できた

地図を見て、興味のあるところに行った

今、振り返れば
自分は何がしたいのか
自分はどういう人間なのか

これらの問いに
旅は確かに答えてくれた

旅に出ると、何もかも自由だった
旅は最高に楽しかった

あらゆることを自分の一存で決められた
どこへ行くのか
どこで何をするのか
何を食べるのか
全て自分の興味の赴くままに実行した
1週間、2週間と長く旅をしていると、
元の生活に戻れなくなる

当たり前だ

普段の生活と違って、旅をしている間は
何かに追われることがない

旅ができるようになった自分は
できる限り旅をすることにした

旅ができるということは、
まさしく特権だった

時間とお金の許す限り旅をした
自分の興味は失せることがなかった
とにかく行って、見て、走った

今しかできないと思って
限界まで、体を使った

いつまでも旅をしていられたら
どんなに幸福であろうか
いつもそう思っていた
行く先々で、とにかく写真を撮った
どうして写真を撮ったのだろうか?
と考えると、答えはやはり
自分のためだった、と思う

その空間、瞬間に立ち会えた喜び
それがシャッターに込められて
写真はできる

自分があの時そこにいた優越感

それを固定できるから、撮った

故に旅は一人でなくてはならない

目的のために狂ったように走り回った

それほどまでに世界は
自分の心を浄化し、
全てを忘れさせて
恍惚とした感覚を与える

世界
それが人為的なものであろうとも、
自然の作り出したものであろうとも、
自分のパーソナリティと共鳴する
「モノ」
との出会いは絶妙で、そして貴重だ

この共鳴のためにカメラと外へ出かけ、
その固定のためにシャッターを切る

旅に惹かれ、写真を撮るのは
間違いなくこのためだ
ずっと旅をしていた

この世界は
自分にとってほとんど知らない土地だった

面白さが溢れていた
ありとあらゆるものが新しかった

この世界は、広すぎた

しかし、北海道なら
隈なくすべてを見ることができそうだと、気がついた

北海道を知ることは、北海道で楽しく暮らすこと
これ以上ないところまで、北海道を見たい
すべてを見れば、何かが分かるかもしれない

そう、思った

この土地に来て数年経った頃、
ようやくこの思いに向かって動き出せるようになった

何が見えるのか
何があったのか

北海道とは何か

網羅的に北海道を観察し、北海道を写真に残したい

そういう欲求が私を動かした

探せば、あるはず

そう思った私は、北海道に焦点を定めた
北海道という単位は、ちょうど良い

端っこまで走ると、いい具合に疲れる
疲れると帰りたくなる

北海道は気持ちが良かった
                                                                                                        
あらゆる手段を使って北海道を調べた
いつどこで誰が
どのような景色を残したのか
そして今、どのような景色があるのか

とにかく調べた
そして端から確認した

地図を眺めて、そこに道路があるなら
どんどん走った

行く季節も変えた
天気も毎回違った

何度も何度も、北海道を走った

知らない道を行き、
知らない大地と空に会いに行く

やっていくうちにだんだんと、
知らない土地が無くなっていっ
旅をしている時はいつも、楽しかった

常に新しい景色がそこにはあった
時折それらが走馬灯のように
まぶたの裏に浮き上がってくる
景色には「ここぞ」という瞬間があって
いつもの景色が、まるで別人のように
美しく映える時があった

そういう「瞬間」に立ち会えたとき
生きていてよかったと心から思った
学年が進むにつれて
自分もおのずと将来について考えることがあった

言わずとも、大学生とは社会人一歩手前である
将来について考えれば考えるほど
同時に放浪の貴重さを意識した

学生時代というモラトリアムそのものが、
ある種の特権的な状況であった

だから自分は、
このモラトリアムで何かを成し遂げたかった

いや、
このモラトリアムで何かが成し遂げられなければ、
自分は一生何もできないのでは?
そういう恐怖すらあった

それほどまでに、
学生時代は恵まれた環境であると、思っていた
多く見たものは曖昧なイメージとして
頭の片隅にある

いざ書こうと思って筆をとっても、
なかなか言葉が出てこない
たくさんの写真だけが残っている

たまに引っ張り出してきて、
こんなだったなぁと思い返して
また元通り綺麗にしまっておく

まだ、知らない場所があるに違いない

持っている時間・お金・体力の
すべてを使って、とにかく旅をした
どこへでも道を通って行けた

「よくぞこんな所に道を作ったものだ」
こう思いながら、私は道を駆けた
時速100キロメートルで

そう、どこまでも道は続いているし
また同時に私は道しか歩けない

思えば常に道だった

旅で、道から離れることは出来なかった
「移動」に魅力を感じる私のような人間にとって
道というものは非常に大きな存在だった

道は私を惹きつけ、私は道を行く

けれども道は誰かが作ったものだから
誰かの足跡の上を私が歩いていることになる

道はなぜか続いていて

私に溢れんばかりの希望と、容赦ない事実を見せる

作られた道をまた、私は行く

この大地に無数に存在する道と
なくならない行先

さあ、次はどこへ行こうか……
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